セットアップ
🃏 → 🍀クローバーの 11
夏の終わりごろ
🎲1d6 → 4
海が見える、とあるお店
🎲1d6 → 2
20代
訪れた客としての一夜
1.訪問
🎲1d6 → 4
それなりに訪れている。
🃏 → 🔶ダイヤの 11
昔ながらの雰囲気。
帰り道にふらりと寄ったのはいつものバーだ。少し街外れのほうにある、レトロな雰囲気の店。実際、雰囲気だけでなく、言葉通りに古い店だ。白塗りの建物で、昼の窓からは鮮やかで青い海が見えて気持ちがいいのだけど、私が訪れるのはたいてい夜。
いつもみたいに快く私を迎え入れた老マスターは、「ここは今日が最後なんです」と言った。
2.会話
🃏 → ♠スペードの 2
マスターの過去や私の過去、私に重なる何か
この店がなくなることは悲しいけれど、私のやることは変わらない。マスターにとっても同じだった。いつものお気に入りのカクテルを出してもらい、唇を湿らせながら取りとめもないことを話す。雑談、近況、気になること、どうでもいい趣味の話。
心地よい時間だ。今日限りの。
「ここを閉めたら」マスターがグラスを満たす間に、私は尋ねた。「どうされるんですか。お店はもう……」
「ええ、看板は下ろしますよ。もしかしたら、別のお店ができるかもしれませんね」
「あなたは?」
「さて、どうしましょうか」
はぐらかされながら出されたのは、見たことない色のカクテルだ。
青緑から黄色までの短いグラデーションが掛かっていて、浅瀬の色みたい。次いでマスターがカクテルの内訳を教えてくれたと思うのだけど、もう覚えていない。私の頭はこの店の行く末に向いていた。
さておき、と彼は頷いて見せる。
「田舎に戻りますよ。そこで……絵でも描いて暮らしましょうかね」
「絵なんて描くんですか?」
「いいえ。ですが、よく見たそこの海くらいなら描いてみようという気になるので」
彼は笑った。私も釣られて笑った。
3.ベース
🎲1d6 → 4
テキーラベース
間延びした音が響く。壁掛けの古びた時計が鳴ったのだ。もう店仕舞いの時間だ。
「あ……そろそろですね」
「ええ。けど、今日はもう一杯、特別でいいですよ」というのは、実のところ彼の口癖だ。
それでも実際、今日は特別だった。彼は私の前に「餞別に」とグラスを置く。餞別を送るべきはどちらかと言えば私だけど、何も用意がないので素直に受け取る。
「これは?」
「あなたが初めての来店で飲んだのと同じものですよ。……千鳥足のお嬢さんが来られたときは、どうしようかと思いましたが」
「お、お恥ずかしい……忘れてください……。でも、覚えていてくれたんですね。私がすごく気に入って飲んだから?」
「いつの御来店でも、お客様のことは忘れませんよ。忘れたほうがよければ……鍵付きの箱に仕舞いこんでおきますが」
「ふふ」
あの夜は、四年付き合った恋人に振られた、最悪の日だった。別れの電話を終えて、大泣きして、自棄のままに飲んだくれて……ふらふらとさ迷ううちに見つけたのがこの店だ。
泥酔しきって、その上でねだりにねだってお酒を出してもらった。今思い返すと頭を抱えて叫びたくなってしまうような状態だけど、文字通り紳士的に対応していただいた。あれからこの店に通うようになった。
あれからもう数年が経つのだ。この記憶ではせいぜい半年前くらいの出来事だろうと言っているから、思い出をたどりながら驚いてしまう。
かつてと同じはずのカクテルは、あのときとはまるで違う味に思えた。それはきっと、時間のせいだけではないのだろう。