KRXCUBJK

脱走兵の話

2025-08-12

制作時のテストプレイ。

来客

どんな人?

🎲1d6 → 2
彼は兵士だと名乗った。

何のために?

🃏 → Joker!
彼は襲撃・戦争のために滞在する。
🃏 → ♠スペードの 1
別の目的(雨宿り?)を持っている可能性がある。

日々

1日目

ダシュがものすごく吠えるから、村の大人たちも様子を見に来た。
子どもの目の前に血を流した見知らぬ男がいるのだから、騒ぎになったのは言うまでもない。

傷の浅い男は、兵士だと言った。負傷のために前線を逃れ、方向も分からず歩いた。ぼろぼろの鎧を着て、唯一の武器である折れた槍を大事に抱えて……。そのうちに、僕の犬と出会ったんだと。
大人も僕も、彼を疑った。この近くで戦争が起きているような場所はない。もちろん、僕たちの知らないところで作戦が行われている可能性もあるけど、それにしては嘘が下手だ。まだ僕のほうが誤魔化すのはうまい。

すぐにでも追い出されそうになった男を、僕が引き留めた。「発見者としての責任を感じたから」という建前で。大人を説得することは案の定できなかったが、兵士の滞在は許された。出血が落ち着くまで休養したら、すぐに出ていくように、と。

2日目

🃏 → 🍀クローバーの 1
破滅的な/死についての/不条理な、農業/作物

ごく自然な成り行きで、男の介抱は僕の役目になった。もちろん、子どもにできることは限られているから、実質的にはほとんど彼自身で自己治療してもらうことになるけど。
男が僕に向ける表情は複雑だった。ありがた半分、不審半分、でも文句を言える立場でない自覚もありそうだ。まあ、当然かもしれない。

「お前は平気か」
包帯を巻く手伝いをしている間、手持無沙汰らしい男は話しかけてきた。無骨そうな見かけに反して、優しい声色だ。
「僕? 僕は怪我してない」
「無理をしただろ、俺を助けるために。その……他の村人からの当たりとか。両親に怒られなかった?」
「親はいないよ」

男は息を呑んだ。「そうか」と小さく言った。

「本当は見つからないで隠れてるつもりだったの?」
「そうだ」と男は頷いた。気まずそうに眼を逸らしたまま。「ここは平和そうだから、安全だと思った」
「平和だよ。でも……ダシュが吠えたせいで見つかったでしょ。かわいそうだと思って」
「だから庇ってくれたのか?」
「うん」

包帯を片結びで留めてやると、男は「絶対に外れなくて済みそうだ」と笑った。
男は少し気がほぐれたようだった。男の治療を手伝う間に、来歴を話してくれた。領地の不作が元で諍いが起きたこと。諍いはなかなか収まらず、やがて内戦の規模になったこと。たくさんの男が兵として駆り出され、そして死んでいったこと。

「……いや、すまない。こんな話は子どもにすべきじゃないね」
「面白いよ」
「面白い?」男はぎょっと目をみはった。言葉選びを間違えた、と僕は取り繕った。
「あの……気になるというか。僕はこの村のことしか知らないから。村の外の話を聞けるのは、面白い」
「そうか」

出来る限りの治療は終わった。
僕はおばさんの小屋に戻り、ダシュと一緒に眠った。

三日目

🃏 → 🍀クローバーの 6
破滅的な/死についての/不条理な、町/都/国

男の傷は浅いわけじゃないけど、男は見ているこちらがびっくりするほど平気そうにしていた。どう見ても痛々しい傷が残っているのに、僕の作業を手伝ったりして、「強いだろう」と笑う。
「俺の国の男はみな強いからな、俺だっていつまでも寝ていられん」
でも怪我してるよ、というと、男はちょっぴり大人しくなるのだ。痛みはまだまだあるらしい。

今日は薬師が来てくれたので傷に効く薬がある。汚れた包帯を剥いで傷を洗い、薬をぴったり塗り込みながら、僕は聞いた。
「どこの国なの? ここから遠い場所?」
「遠いな、すごく遠い。俺が戦っていた戦地とはまた別の場所なんだ。戦地もクソみたいな場所だったが、国の中はもっと悪かった」

男は、いてて、と顔をしかめる。
僕はと言えば、自分の住む国を悪く言うやつを初めて見たので、驚いていた。僕がそんなことを言おうものなら、まずおばさんに怒られて、お隣さんにも嫌がられて、最後に役人のやつに殴られる。

「そんなに……嫌いだから家出するの? だから戦争から逃げてきたの?」
男は黙った。あー、とか、いや、とか、言葉にならない相槌をくり返した。やがてようやく口を開くと、「そういうわけじゃない」と小さく言う。
「……逃げてきたわけじゃないよ。抜け出すわけにはいかない。戦友も置いてきたし、俺だけ安全なのは裏切りものだからな」
「せんゆう? 親友?」
「戦友。友達のことだよ。一緒に戦う兵士の友達だ」
「僕も、戦争にいったら友達ができるのかな」
「……なぜだ? この村にお前の友人はいないのか」
「僕の友達はダシュだけだよ」
「いい友達だな」と男は笑った。「優しくて勇敢だ。大事にするといい」

ダシュは未だにこの男に懐かなかった。見かけるとうるさく吠えるものだから、僕が男の世話をするときはおばさんの元に置いてくることにしたのだ。

「……きっと血の臭いが苦手なんだ。怪我が治ったら、仲良くしてくれるよ」
「そうだといい」

男は疲れが残っていたのか、治療が済むとすぐに眠ってしまった。僕は最低限の片付けをして、小さな小屋を後にした。

四日目

🃏 → ♠スペードの 11
英雄的な/勇猛な/波乱万丈な、研究/学術/文字

この男は、持ち込んだ折れた槍をとても大事にしているようだった。なかなか体のそばから離さないし、この村に鍛冶場はあるか、手芸の得意なやつはいるか、質のいい木材は採れるか、隙を見つけては矢継ぎ早に聞いてくる。

「まだ戦争は続いている。完璧に修理して戻らんとな」
それにしても、一体どこの戦争の話をしているんだろう。
「木こりのおじさんなら村はずれにいるよ。手芸は……おばさんたちがしてる。かじばは分かんない」
「そうかそうか。木こりさんには強い木を譲ってもらえないか、後で頼みこまんとな」
「……すっごくぼろぼろだけど。大事なの?」
「この槍か」

男は僕に見えるように槍を持ち上げた。槍は血まみれだし、三つ折りのように柄が折れてしまっていて、武器どころか杖としても使えそうにない。

「すごく大事だ。俺たちにとっては、自分の身を守るお守りみたいなもんだ。ぼろくなったからって捨てるわけにはいかない」
「ふうん……」
包帯を結ぶほうに集中していたら、返事が適当になってしまった。男は笑った。
「お前もお守りを持つといい。これさえあれば頑張れる、と思うようなやつをな」
「武器?」
「武器でも、他のものでもいい。お前にとって大事なものだ」
「大事なもの……」

そう言われても、何も思い付かなかった。
おばさんの家の中に、僕の所有物はほとんどない。服や道具は借りものだし、僕が自由にできるものはダシュくらい(もちろん、物体という意味のものじゃない)。

「今は難しいか?」
「……うん」
「心配すんな。いずれ見つかる」

この男は怪しいし、身の上話は話半分で聞くべきかもしれない。でも、力強く言い切った言葉に、嘘は感じられない。

「モノじゃなくても、ただの憧れでもいいんだぞ。父親……はいないんだったか。ほら、格好いい英雄像とか、憧れるだろ」
「あー……。英雄ナビュゲート様のこと?」
「そう!」

ものすごく大きい声で相槌を打たれた。英雄に憧れているのは、この男のほうかもしれない。

五日目

いつものように小屋に入ると、男の姿はなかった。

小屋には初めから何もいなかったかのように、がらんどうだった。染みた血で汚れた床も、僕が置いていった包帯も、きれいに片付けられている。ただ一つだけ残されていたのは槍だ。三つ折りに折れた、ぼろぼろの槍。
僕は夕暮れまでその小屋で待った。男は昨日教えた木こりに会いに行っているのかもしれない、そう思ったから。そうでなければ、この槍を置いていくなんてことは考えられない。あんなに「大事」と言っていた槍。
その日、持ち主が戻ってくることはなかった。次の日も、その次の日も同じだった。

男は忽然と姿を消してしまった。

それを知った村人たちは、「きっと逃げ出したんだろう」「もう戻ってこなければいいのに」と口々に言った。ちょっとだけ僕も同じことを考えていたが、でもまだ割り切れない。彼は大事な忘れ物をしているはずなのだ。
きれいさっぱり片付けようとする村人を止めて、槍だけは僕が預かった。刃物の扱いは分からないけど、とりあえず汚れは拭いて、変なことにならないようにした。例えば刃が錆びるとか、柄がかびるとか。大事なものが朽ちてしまうのは、きっと悲しいことのはずだ。


「たぶん、僕に預けていったと思うんだよ」

僕のひとりごとに、老いたダシュは首を傾げる。
あれから随分経った。村人はもう、あの日訪れた男のことをよく覚えていない。最近では、あのしっかり者のおばさんだって物忘れが多くなったのだ。顛末を知っていて、そして彼のことを覚えているつもりがあるのは、たぶんもう僕らだけだ。

「大事なものとして。もしかしたら、僕に大事なものが見つかるまでの代わりとして、さ。……武器がなくて戦えたのかは、すごく心配だけど」

外で小さな戦争が起きたという噂も何度か流れてきた。幸いと僕らの町は平和なままだったけど、またいつか傷ついた兵士が迷い込んでくるかもしれないと、僕の家にだけは包帯と薬を切らさないようにしている。今のところ、備えは空振りのままだ。

「でも、だからって、人の大事なものを勝手に捨てるのはどうかと思うしさ。やっぱり、まだ預かっておこうと思ってる」

顎を撫でると、ダシュは小さく喉を鳴らした。僕の大事な友達は、どことなく嬉しそうに見えた。