シナリオ:村に来た冒険者の話を聞くソロジャーナル試作
どんな人?
🎲1d6 → 6
🃏 → ♠スペードの 10
彼は逃亡者らしい。
装備品の修繕のために、10日ほど滞在する。
ただし、何か隠している。たぶん、別の目的を持っている。
日々
1日目
大人たちが嘘をついていることは、何となく分かった。
本当に何となくだ。これと言って理由を説明できるわけじゃない――例えばよそよそしくされたとか、わざとらしいとか、そんなことはなかった。全く。でも何となく、子どもの私に隠したいことがあるんだな、と感じた。
原因は彼だ。昨日、村にやってきたよその人。
大人たちからは、単に「兵隊さん」と呼ばれていた。兵隊さんは、村唯一の工房の屋根と、それから鍛冶道具を借りているらしい。意味はよく分からなかった。
分からなかったので、見に行った。ご飯を食べた昼下がりのことだ。工房の中で、兵隊さんはトンカン音を立てている。あの音は聞き覚えがある。工房のジムおじさんが剣を鍛えるときに立てる音だ。
「兵隊さん」と私は呼びかけた。物音に負けないくらいに声を張った。「兵隊さん」
しばらくして、兵隊さんは汗をぬぐいながら振り向いた。私の兄ちゃんとあまり変わらない年齢に見えた。でも、村の外から来たんだし、きっと兄ちゃんよりは年上なんだろう。兵隊さんは私に驚いた様子で、でも笑顔を作って言った。「こんにちは。村の子かな?」
兵隊さんが言った言葉は、単なる挨拶の一つみたいで、あまり耳に引っ掛からなかった。私はたずねた。
「工房の屋根と道具を借りるためにきた?」
兵隊さんは「そうだよ」とほほ笑んだ。
嘘つきだ、と思う。
2日目
かまどに息を吹き入れる私に、母ちゃんが言った。兵隊さんの邪魔するんじゃないよ、とか、そういう感じのこと。
「なんで?」
お仕事があるからね、と母ちゃんは答えた。お仕事。子どもの遊びに付き合う意味はない、って意味の言葉だ。子どもだってお仕事はするのに。
母ちゃんが言うには、兵隊さんは装備品を直すために村に来た、ということだ。だから工房に寝泊まりもしていると。
言葉の最後に、兵隊さんの武器と鎧は大事だからね、と付け加えられた。
🃏 → 🧡ハートの 11
なんらか前向きな/研究、学術、文字
話をするだけなら邪魔ではないはずだ。
兵隊さんはやっぱり工房にいた。私の気配にすぐ振り向いて、また笑みを作る。
「こんにちは、また来たね」
「こんにちは」
「近寄らないでね、危ないから」
「うん」
「見ていく?」
「うん」
兵隊さんは剣を吊るすベルトを直していた。大きさを測って、折り込んだり、縫い付けたり。動きはとても速かった。村の女の人たちみたいに器用な手つきだ。
私は近くの木箱に腰かけて、その作業を眺めていた。兵隊さんも見られること自体は構わないみたいで、でもたまに私の様子を窺っていた。多分、危ないことをしていないかとか、そういうことが心配なんだと思う。
「いつも」足をぶらぶらさせながら、私はたずねた。「剣を直しているの?」
兵隊さんは問いに振り向いて、少し考えた。やがて頷く。「いつもってわけじゃないけど……、ほら、よく使う剣はよく壊れるだろう?」
「うん」
「だから、よく直す。君のいつもやることは?」
「薪を割って、かまどを焚いたり、お風呂を沸かしたりする」
「へえ、やるね。重労働だ。……他は?」
質問の意味が分からなかった。私は首を横に振ったが、兵隊さんは丁度こっちを見ていなかった。様子見の視線が再び私に向いたとき、改めて口に出す。「他って何?」
「他にやることだよ。薪割り以外に……料理したり、書き物したりさ」
「料理は母ちゃんがする。かきものって何」
兵隊さんは嘆息した。ああ、文字を読めないのか……と言った。
てっきり怒られたのかと思ったけど、どうやら違うらしい。兵隊さんは続けて言った。
「手紙を読んだり、書いたり、物語を読んだりすることだよ。面白いんだ」
外の人が面白いということは、きっと本当に面白いに違いない。母ちゃんは絶対に教えてくれない。
……村長さんがたまに手に持っている、薄くてくるくるになった皮の紙。聞けば、あれを手紙と呼ぶらしい。そして、その中にある汚れを文字だと。
さらに、文字をいっぱい書けば、こうして話しているような内容をたくさん残せるんだと。
「兵隊さんはいっぱいかきものするの」
「俺は……たまにかな。でもやるよ。君にも今度手紙を出そうか。名前は?」
中身の分からないものを受け取ることに、面白さはあるんだろうか? ――兵隊さんは私の表情を見て、たまらずに苦笑をこぼした。でも私は答えた。
「ファナ」
4日目
🃏 → 🧡ハートの 7
前向きな/遊戯、遊び、興行
お昼のかまどが用済みになる頃、私は兵隊さんの元へ遊びに行くようになった。
兵隊さんはたいてい、何か細かい作業をしていた。炉を使わず、机の上だけでできるようなこと。何となく、「子どもに邪魔されないようにしているんだ」と感じた。実際、火の回りで遊んでいるとかなり怒られるから、仕方のないことだとは思うけど。
幸い、今日の作業は針仕事のようだ。私はテーブルに腰かけて、間近で眺めることを許された。
「変なもようがある」
「これかい? これは……そうだな、模様だよ。紋章って言う。きれいだろう」
「きれい」
色のついた糸だけで絵のように作り込んだ模様だ。村でこういう装飾を着る人はいない。贅沢で目立つからだ。
「私の服にも作って」と言ったら、兵隊さんは途端に声を低くした。母ちゃんが怒るときにそっくりだった。
「ファナ。そんなことを言っちゃいけないよ。これは大人だけが使えるものなんだ」
「大人が使うもよう?」
「大人の……、ええと。村の外の大人だけが使っていい模様だ。それも、誰でも使っていいわけじゃない」
領主様がいつも着ている縞模様みたいなものなのかな、と思った。きれいで贅沢で目立つけど、あれを村人が着ることは許されない。
領主様は、贅沢な村人を見ると怒る。だから、今の兵隊さんも怒ったに違いない。
「分かった。いらない」
「よし」
兵隊さんは頷いて、また集中する作業に戻っていった。紋章をひっくり返して、裏をきれいにし始める。
私には、また単なる模様にしか見えなかった。でも、兵隊さんが言うには文字なんだろう。「サベラント革命軍」――読めなければ、意味も分からない。
革命軍って、何だろう?
8日目
🃏 → ♠スペードの 7
ドラマチックな/遊戯
兵隊さんは手が器用だ。余り物の板材とナイフを使って、遊びのボードを作ってくれた。
町では、これを「ちすぼーど」と言うんだって。聞いたことがないけど、すごく面白いらしい。
「見ててごらん。白い石が俺のチームで、黒い石がジムのチーム」
私が見ている横で、兵隊さんとジムおじさんは交互に石を動かしていった。マス目のいくつかを進んだり、他の石を取ったりしていく。
二人は楽しそうだけど、私は何が何だかよく分からない。分からないのでぶすくれていたら、ジムおじさんに笑われた。私は余計につまらない。
「君の歳にはまだ難しかったかな」
「何、これくらいは慣れよ。ファネリアはかしけーんだから」
全くつまらないものだ。私は返事をしないで、工房を出た。
10日目
兵隊さんは今日、村を出る。作り物が全部終わったのかもしれない。
村人へのあいさつは個別に済ませてきていたようで、見送りは私だけだった。私は一日拗ねて走り回っていたから、なかなか捕まらなかったらしい。
「病気するなよ」兵隊さんは笑って言った。「立派な大人になれ」
兵隊さんは難しい言葉をよく知っている。紋章とか、立派とか。私には意味が分からない。
そういう意味の分からない言葉を分かるようになれば、兵隊さんが願うような大人になれるんだろうか。――でも、今それを問いただしてしまうことは、目標から少し遠のく行為であるような気もした。何となく、だ。
「またくる?」
「いや。もう来ないよ。お別れだ」
「分かった。……さようなら」
「さようなら、ファナ。ファネリア」
兵隊さんは踵を返して、茂みの道を下っていった。町があるほうとは反対の道だ。
私は、しばらく飽きもせずにその方向を眺めていた。見送りと言うには地味なものだった。