シナリオ:試作のやつ
月の下
淑やかな歩幅にとって、峠の旅程はとても長いものだった。
風呂敷包みを下げていると小走りは封じられる。元より届けを急ぐ荷物でもないし、はしたないから人がいないとて忙しなく走るわけもないのだけど。
とはいえ、春先の夜風は未だに澄んだ冷たさをはらんでいる。日が沈む前に木賃宿のひとつでもあれば……と歩みを進めていたけれど、私の見通しは甘かった。既に日は沈みかけ、目前にあるのは無人の荒れ屋敷だけ。
呼びかけても丁稚の一人も出てこない。
致し方なしに屋根だけ借りるかと寄った、そのときだ。
背後でからからと鳴った。音の響きやすい金物を引きずる音。
振り向いたら誰もいなかった。いいや、見えなかった。
私の眼に映るのは、古寂れて雨を漏らす天井板だけだ。……天井? なぜ? 私が今まで立っていた場所はどこにいったのだろう。方向感覚を失ったままにようやく目だけで見回して、それが見えた。
遠いい月が人の顔の形にくり抜かれている。誰か。逆光だ。誰かの輪郭は薄ら歪んでいる。
ああ、笑っている。
プロンプト
弥生の月、浅い軒下にて、一人の辻斬りが佇んでいる。
翻る、麻の葉が。
切り捨てる、紬を。
そこには、喜色がある。
そこには、わずかな血痕のみが残された。
3クラブ/2クラブ/7ハート/12クラブ→赤スート1枚!