シナリオ:勇躍きたれ
勇躍きたれをシンプルにリメイクしたかったので、修正とテストプレイ。
キャラクター!
♠5 男、ランク5。もう少しで中堅くらいの弱者
❤️3 後衛・殴打
バンコット。駆けだし冒険者の男。
スリングと鉄球が合わさったような形状の鈍器を振り回す。威力よし、武器の仕様にしては命中率もかなりいいものの、いかんせん本体が打たれ弱いため万年補欠。
♦5 所持金は少なめ。冒険者としてはまあまあ堅実なほう
♦12 富、物質的な充実/ねちねち嫌味
吝嗇家で嫌味ったらしい物言い。
その豪快な戦闘スタイルとは裏腹の物言いに、悪いほうのギャップを抱かれることも多い。友達が少ないのは自業自得である。
かなりの額の借金持ち。
賞金で稼ごう! という魂胆で闘技場に参加したが、やはり肌に合わない気がしている。
やるぞ~!一日目!
闘技
対戦相手
🍀12 めっちゃ熟練の男
♠6 前衛/火
❤️2 愛、精神的な充実/まっすぐ素直
サイトクル。拳に炎をまとわせて戦う男冒険者。
明るく芯の通った振る舞いで、典型的な拳で語り合う系。定期的に闘技に参戦している常連でもあり、戦友足り得る相手を探しているんだとか。
闘技開始!
対戦相手の前評判は最悪だった。もちろん、バンコットにとってという意味だ。
いわく、熱血なやつ。闘技の常連。鍛錬が趣味。友達が多い。誠実。ファンが付いている。その他その他……。
できることならば近寄りたくない相手だ。物理的にも、精神的にも。
こんな闘技はすぐにいなして次に行ってやろう――と思えるほどの肝はバンコットにない。どうせ負けるのだ。回収しえない参加費による収支のことを考えながら位置に付く……。
❤️4 <ランク5!
ジョーカーだ!!!!!! 番狂わせ!!
あの快活な男も「信じられない」という表情を作れるらしい。
でも、おそらく自分自身も同じ表情をしているのだろう。そうバンコットは思う。
先に膝をついたのは相手のほうだった。結果はバンコットの勝利だ。己の有利は射程だけと言っても過言でないのだから、物事がやけにうまく運んだという他ない。
新人が常連に勝利したという番狂わせに観客は沸き立った。罵声か怒声かも分からぬ賑わいで闘技場は騒然となり、金やら飯やらが投げ込まれる事態となった。
普段なら勇んで金を拾うところだったが、現状の整理に思考が追いつかない。せっかくの勝利の余韻を味わう気分にもなれない。
互いの怪我は目立つが、命にかかわるほどでもないのだ。自分の働きはこれまでだろう。――吝嗇家の男はそそくさと戦闘場を後にする。
夕食!
♠8 戦ったことがある闘士と/嫌がらせした/された もう関わってきて草
「貴様の武器使いはすごいな!」
こいつのこういうところが苦手なんだ。そうバンコットは噛み締めた。
隅で硬いパンを齧るバンコットの元に訪れたのは、先程打ち負かしたばかりのサイトクルだった。生傷を頬に付けたままに相席し、食事の合間で高速詠唱のように話しかけてくる。
たった一度の勝利で、何やらすっかり懐かれたらしい。たくさんの褒め言葉を与えられているのに居心地が悪いというのは初めてだ。
「軌道がなかなか読めないし、一撃もかなり重い。入場のときにやけに縮こまっていたのはパフォーマンスなんだろう? してやられたぞ」
「……こっちはあんたほど場慣れしていないんだ」
「じゃあ肝が据わっていたということだ。見かけに踊らされるなんて俺もまだまだだな、久方ぶりに初心に返る機会を得られた」
「もう帰れよ。あの一勝はまぐれだ」
つい口を出た一言に、サイトクルは頬張ったままに首を傾げた。
こういう反応をされるとまるで自分が悪いことを言っているような気がしてくる。いいや、実際にひねくれた物言いではあるんだけど。
自分を嫌なやつにしてくる相手こそ、バンコットは嫌いだった。
「まぐれなんだ。俺みたいな腰抜けが、歴戦の常連を相手に真っ当に勝てるわけないだろう。運が悪かったんだよ、あんたは」
水をグビグビと喉に通して嚥下すると、彼は快活に笑った。バンコットを笑い飛ばした、と言ってもいい。どこを切り取っても不思議と嫌味のない振る舞いだった。
「じゃあ、やはり俺はまだまだだな! 闘士は運も味方に付けてこそだ」
前向きな野郎だ。負けた、と思う他ない。
二日目
闘技
🍀2 レベル2の男
❤️12 後衛の/毒物・薬品
♦3 富、物質的な充実/はつらつとハキハキ
また元気なやつがきた。
対戦相手は、バンコットと同じく初参加の闘士らしかった。誰に聞いても――不本意ながら、サイトクルを含めて――そいつを知らないと言う。とは言え、一回戦はなかなかの勝利っぷりを見せたというから油断はできない。
バンコットの両肩には「初戦で常連を撃破した」という大きな評判と期待が掛けられている。闘技場という性質上、仕方がないことは分かっているが、気になるかと聞かれれば当然イエスだ。元より、大きな舞台に立つ機会は今回が初めてで、初戦の緊張が解けてなくなったわけでもない。
頭の中でいつもの呪文を唱えた。金、金、金。俺は金を稼ぎに来ている。応じて、一つの深呼吸。門をくぐる。
❤️5
🍀6 勝利だ!
「範薬物ハンナール学所属、ダナと申します。以後お見知りおきを」
痩躯で猫背の男は、よく喋る男だった。人の粗を探すのが得意なバンコットには分かる――彼はサイトクルと違い、口撃を好む質の者だ。
口上からも、名を売りに来たという姿勢は伝わってくる。なるほど研究者というのは資金繰りに苦労するらしいから、観客席の富豪の目にでも留まれば万々歳なのだろう。
「……バンコット。所属はない」
「おやおや、そうですか。路頭に迷った折はうちの研究室に招いて差し上げますよ」
「実験台としてだろ? やなこった」
ダナの手にあるナイフは妙な色に光っている。薬液の色だ。彼は短剣使いという体格にも見えないし、投げて相手にかすりさえすれば……という品なのだろう。相性の色濃く出る相手と言ってもいい。しかし。
相性、運。今の自分なら、不思議とどれにも対応できる自信があった。むかつくことに。
夕食!
🍀7 戦ったことのない闘士と/何かを告白した/された
🍀1 ランク1!新人?!
❤️8 後衛/土・植物
♦13 富、物質的なまたかい/とげとげしい
「なあお前、人殺しってどう思う」
脈絡もなく問われたものだから、思わずむせてしまった。
バンコットの向かいに座ったのは、目付きの悪い根暗そうな若者だった。サイトクルと入れ替わった直後だと、なお対極的な雰囲気が目立つ。
「なんだよ。どうって……どうもこうもねえだろ」
「悪いと思うか? いいと思うか?」
「……何の話をしたいんだ?」
食事を再開する。
戦いの場というものは、良くも悪くも変わり者が集いやすい。もちろん、サイトクルやダナのように性格が変わっているという意味もある。バンコットがこの相手に対して警戒するのは、もう一つの意味のほう。頭のおかしいやつ、だ。
「人を殺そうと思っている」
こいつは後者かもしれない。
咀嚼中、相手の身なりを眺める。動きづらそうに着込んだ服装は典型的な魔術師のそれだ。童顔か、あるいは本当に若いのだろうか、とても戦い慣れているようには見えない。鍛錬の結果が体に出にくい魔術師だとしても、まだまだ座学で読み書きを覚えている最中だろう、という歳に見えた。
「それを俺に言ってどうするんだ。手伝いはしない」
「しなくていい。どう思うか聞きたい。例えば」
この少年はまばたきが少ない。まっすぐにバンコットを見ている。
「試合中にナイフが滑って心臓を貫いたとか。白熱した結果どちらかが死ぬまでやり合ったとか。手加減のない試合で確実に死ぬまで攻めたとか。致死量の毒をそうと分かって」
「もういい、もういい。……つまり、事故か正当性を装っての人殺しって話だな」
「どう思う?」
「……闘士の命の保証はないって、参加時に口酸っぱく言い聞かせられただろ。他の抜け穴が欲しいなら役人にでも聞けよ。追い出されても文句は言えない」
バンコットが残り少ない食事を再開すると、少年は席を立った。諦めて部屋に戻るのかと思えば、視界の隅で門番に近付いていく姿が見えた。
本当に尋ねに行ったらしい。馬鹿正直なやつだ。思わず、呆れの息が口をついて出る。
硬いパンを齧りきって、食堂を後にする。今日も騒がしい夕食だった。――退屈しないのは、なんとも悪かないが。
少年のその後の顛末は知れない。知ったことでもない。