シナリオ:旅といちにち
キャラクター:#茶外套の薬草魔女とクミナ!
ある日
🃏 → ♠スペードの 6
非日常的な密林
拾ったばかりのクミナは、全くと言っていいほど使い物にならなかった。
非力なものだからスプーンより重いものは派手に落とす、軽い作業でもやらせるかと鉢を渡すとひっくり返す、火の番をさせたら興味本位で指を突っ込む……。小屋に迎え入れてからの数日は、軽い治療だけで過ぎてしまった。
成長薬が欲しいと言うのも頷ける。しかしだ、薬品でもたらす成長がどう転ぶかなど、目に見えている。薬草魔女たるもの、そういう危険性は嫌というほど身に染みている。……普段は、見ず知らずの他人にも同様に接するほど、そこまで親切でもないのだが。
ともあれ、この子どもは行き場のない居候だ。できれば災厄の種にはしたくないし、あわよくばうち労働力になってくれたほうが助かる。
まず必要なのは体作りだった。山菜と肉と卵を一日三食分食べ、軽い運動をさせ、早めに就寝させる。
とは言え、まともな食事の用意など久々だ。何より私は一日二食(少ない時はゼロ食!)で過ごしていたものだから、クミナよりも矯正された気がしないでもない。美味かどうかも分かりやしない食事だが、クミナは毎食残さず食べた。
運動の代わりには、日々の畑仕事を任せた。農具など持てるはずもないから、とにかく穴を掘れと言い付ける。ごみ捨て場やら発酵蔵やらで穴の使い道は多いから、いくらあってもいいのだ。
労働としてはなかなかに過酷だろうから、休憩も自由にさせた。ただしクミナは休憩が下手で、結局いつも私が頃合いを見て家に呼び戻さねばならなかった。
初週は体を壊してひっくり返ることも多かったが、二週も経てば慣れたようだった。顔色が随分よくなったし、心なしかつやつやして見える(定期的に湯浴みもさせているから、当然のことではあるか)。傍目にはまだまだ貧相な子どもだが、私には見て取れる変化だった。
動けるようになったのなら、次の段階に進んでもいいだろう。
ある日、初めてクミナを伴い、採集に出かけることにした。
🃏 → ♠スペードの 10
価値のある恐怖
採集服を着たクミナは、何と言うか、服に着られている。
少ない支度の後、山林のより深くへと出発した。そう遠くもない区画の、いっそう草木が茂ったエリアへ。
今回の目的は複数の採取物だ。何でもいいから動物の骨、ロミィチク鳥が食事のために蓄えて発酵させた木の実、水のようにさらさらしたスライムの出す糞……。
実を言えば、子どもは間違いなく荷物であろうから、採取は二の次でもあった。散策さえできればよい。一応採取についても説明したが、聞いていたのかどうかは怪しい。ぼんやりした瞳は未だに改善されない。
その表情が変わったのは、魔物に出会ったときだった。
クミナと共に、砂粒のような木の実を採取していたときのことだ。子が落ちた粒を追いかけて茂みを覗いたあと、悲鳴を上げて後ずさった。何かと振り向けば、大きな花が開いていた。灰色の花弁の中央には、人の顔が見える。
食虫植物だ。それも、食事中の。
この植物はかなり凶暴な種だが、食物の消化中だけはほぼ休眠状態になる。物音を立てようが反応しない、極めて安全な状態だ。……クミナは一見ですっかり怯えきってしまったが、運がいいことだったのは違いない。
危惧していたほど、子の体力の消耗は少なかった。背負われることもなく小屋まで戻れたのだから上出来だ。ついでに、採集物も想像よりは集められた。クミナがこうも塞いでしまったのは誤算だったが、代わりに時間をかけて話をした。
自然中には、正体の知れない生物や危険が数多くあること。
一人のあなたが今まで生き延びていたのは、本当の意味で幸運だったこと。
そして、森や自然を正しく知れば、あのような危険に対処する術も身に付けられること。
クミナは相変わらず声を出さないし、表情の変化も些細なものだったが、私の言葉は芯まで通じたようだった。夕飯をほんの少しだけ残したあと、私に言った。勉強をしたい、と。
その後は就寝まで静かなものだったが、もう暗い表情はしてなかった。……明日からは、文字の読み書きが日課に加わることになりそうだ。