KRXCUBJK

クエスト「初夢」

2025-01-09

季節ネタの読み物クエスト。

季節ネタと言っても、タイトルの「初夢」を前面に押し出したあけおめ感はなく、独立したストーリーについでで関わってくるという感じ。マルチプレイならきっとその場だけの大切な話ができると思う。

以下はソロールログ。
当然全てのネタバレがある。クエスト未プレイの人はこのログを読む前にぜひプレイしてください。


コルト
「うわっ、何この部屋! 本?
 足の踏み場もないんだけど!」

コルト
「姉さん、掃除してたんじゃなかったの?
 どうして逆に散らかってるのさ!」

アルマ
「ちゃんとやってるわよ、それにこれは本じゃなくて日記。
 いい? コルト。私はね、今思い出の大掃除をしているの」
姉さんは普段しっかり者なのに、
こういうところだけ妙にロマンチストだから困ります。

最近は東方文化ブームが来ているみたいで、
特定の日に見る夢は正夢になる! とかなんとか。

僕はそういう、ヒゲンジツテキなのは信じちゃいない。

……夢は思い出の整理整頓。
掃除がそうであるみたいに、大事なものはいつだって、
嵩んだ古い記憶達の奥底に眠ってる。

それを引っ張りだすのが夢なんだから、
意識していたら正夢になることだってあるでしょう。
そっちのがロマンがあるんです。僕的には。

初夢


どこかの森

錬金術師による、失せ物探しの依頼。
その帰り道だった。
それなりに大きな都市メズルからリーンに戻るため、
あなたたちは馬車を借りる。
この時期は故郷に戻るものが多く便の空きが少ない。
それでも念のため、金を掛けて信頼の於ける運輸ギルドのものを選んだ。

いくつかの宿場町を経由して、計4日ほどの旅程となる予定だった。
固い座席で退屈しのぎを繰り返して、幾ばくか。
日が沈み始め、野営の準備をする。

干し肉を煮出し、簡単なスープを作った。
身が温まったからだろうか、瞼がとろりと重くなりはじめ……。

バート : (いつものごとく、野営にしては緑の彩に手の込んだ食事を終えた後。片付けの最中にも、バートは度々目を擦った)……、いけない。眠くなってきたな……
バート : 明日も早い、早めに休まねば……

……夜明けの気配に目を覚ますと、
あなた、あるいはあなた達は違和感に勘付いた。

焚火はすでに消えている。

バート : (何のかんのですっかり眠り込んでしまった後か。あくびを噛み殺しながら伸びをして)

……ない。ない。鞄をひっくり返し、懐をたたいても見つからない。

最悪だ。全額盗まれた。手持ちの金がこれっぽっちもない!

バート : (さて朝支度を、と考えたところ。荷物を探る手はすぐにでも荒くなってゆく)……あっ、あれ? 財布……
バート : (背嚢をぺったんこにしても、その辺の草間を探っても。全くもって――)……、か、空っ……!(膨らんだ革袋は見当たらない)

それだけならまだいい。リーンに帰れればなんとかなる。
問題は……。御者が馬車ごと逃げたことだ。
周囲はもぬけの殻。帰る手段そのものが消えたのだ。

バート : 困ったな。あの、御者さん! 怪しい影を見ませんで……(問いかけに振り返るも、影も形も見当たらない。大きな馬車も、体の大きな馬も)……!!

異様な気だるさがある。
夕餉のスープに何か入れられたのだろう。
調理は自分たちだったが、目を離したすきに薬を盛ることは可能かもしれない。

バート : ぐぅっ……(思わず食いしばって呻いた。己の迂闊さを呪っても仕方ないが、それはそれとして頭を抱える)
バート : (名の知れた組織での手配だからと油断した。それに、とても振る舞いのいい御者だったから、すっかり信用しきっていた)……こういうことも、あるんだな……(身をもっての学びだ。都会に出てきたばかりのバートにとって、あまりにも手痛いが)

しかし、信頼のあるギルドの馬車を選んだはずだが……。
だって、手形だって見せてもらった。

……記憶にかすみがかったように思い出せない。
あの運輸ギルドの名前はそもそも……なんだっただろう?

バート : (バートの勘違いであれ、何かの手違いであれ)……。命があるだけ、良いもんか。(結論は一つだ。言い聞かせるように独り言ちて、深~く息を吐く)

釈然としないものはあるが、犯人捜しをするより先に、
なんとかしてリーンに戻らなければならない。

バート : (思案の延長で考えた――ひとまずは、今ある荷物と共に、ひたすら歩くことになりそうか。随分と気の遠い道のりになりそうだけど)

あの御者はあえて外れた道を走ったらしい。
街道まで出ることができれば、それをたどって町にたどり着けるだろう。
もしくはそれまでに集落でもあるかもしれない。

バート : (それしかない。頭を上げて、両頬をばちりと叩いた)バート・ロバート! お前ならやれる。
地図を取り出した。遠くに見える山と方角を照らし合わせる……。

現在地を特定はできないが、北に向かえばおそらく街道に出るだろう。
どれほど掛かるは分からないが……。

バート : (そうと決まれば、まずは行く道を決めねば。茂みから山の立つ地形を覗き、方向の概算をする)……(まあ、目安だ。目安。際限なく歩けば、いつか紙面の街道にはたどり着ける。はず)

バートは何も入力しませんでした。

バート : (荷物をまとめ、ざっと野営の跡を散らす。肩をぐるぐる回して、行くぞ、と頭の中で唱えた)

轍が北に続いている。御者が逃げ出した痕跡だ。

バート : …………………
バート : 今度会ったら、盗られた全額と、今から自分が歩いてすり減らす靴を立て替えてもらわねば。
バート : (とは言え、たった今追いかける用事も余裕もない。隠しもされないで残った窪みを横目に、獣道をかき分けて歩き出す)

どこかの森

今朝はよく晴れ渡り、空気が澄んでいる。
爽やかな心地は皮肉のようだ。

木々や空を飛ぶ鳥に駆けるリス。
生態系はどれも見覚えのあるもので、リーンからそう遠く離れていないことを示している。

轍は見つからない。
日が暮れる前に、人里に辿り着ければいいが……。

バート : ……、これが採集の散歩道ならなぁ……。有意義に歩き回れたのに。
バート : (いたってのどかな森の道。耳に届くものと言えば……のどかに木々が鳴らず梢の音と、散発的なさえずりと、さくさくと背の低い茂みを踏む、自分の足音)

高原に出た。周囲には遺跡が広がっている。
石板の文字をなぞっても、その意味は推察できない。
建築様式はどこか有機的で、まるで地底人が作ったかのようだ。

地図にそれらしい表記はない。
これほど大規模ならば、リーンでも少しは名を聞きそうなものだが。
本当に……どこに出てしまったのだろう?

バート : (散策らしく眺めるものもないまま、ひたすら真っすぐに歩む。ふと、足元の感触に硬いものが混じり)……、ん?
バート : (視線を上げると、人工物のような塊が一つ、二つ……)集落か? ……いや、……(どれも朽ちてはいるものの、森に馴染みきらない存在感を伴っている)

バート : (遺跡に囲まれながらの進路は警戒半分、好奇心半分だ。奇妙なことには、手元の絵図にも情報がない。覚えのない光景だと、つい姿形を覚えようと視線が巡る)

得体のしれない、埴輪に似た石像がある。

バート : ……変だなぁ。これは兵士をかたどった像か? 無骨なりの愛嬌はあるが……
バート : (あるいは、得体の知れない恐ろしさ。不審物には触れないに限る、と、心ばかり足音を潜めて過ぎる)

高原を抜けるとまた森ばかりで、なかなか街道に出ない。
太陽はそろそろ真上に昇る頃合いだ。

しかし、どことなく道のようなものが見えてきた。
半分自然に飲まれてはいるが……。

バート : (踏み入る獣道は、だんだんと幅が広がりつつある。往来がある証拠かもしれないと思えば、自然とバートの歩みも行軍のように調子づいていく)


道標がある。
少なくとも、見慣れた人工物の形跡だ。

バート : (整備された道でも見えやしないかと見回していた視界に、ふと、移り込む縦長の影――遺跡よりも確かな、人工物だ)むっ、やった!
バート : 案内板か。近くの道でも示してあれば……(と茂みを払って覗き込み)

『この先 リノ■村』
 ──苔むした中に、幽かに公用文字が読み取れる。

バート : この先、り……、んん? リーン……ではないな……リル、リノ、リノー……村?
バート : (これが余程古びた案内でなければ、徒歩の距離に人里があるのかもしれない。いくらか足の楽になってきた道をたどり、また歩を進める)

リノの村

……住居だったであろう残骸が広がる。
廃村のようだ。道を聞けるような人の気配もない。
枯れ井戸の淵を、小鳥が飛び立った。

バート : (さて、かすかな予想に限って当たるものだ。やがて開けた視界に飛び込んできたのは廃墟、廃屋、残骸の類)……、ここがリノー村。(人以外の生物の気配だけは、賑やかなものだ)
バート : (生い茂った草木を踏み越えて、家々へと近づいてゆく。廃村というものはバートも見慣れたものだったが)……(既に手遅れと言えど、そうなった理由に思いを馳せずにはいられない)

丸太で作られたベンチがある。苔むしているがまだ座れそうだ。

バート : (人が離れて月日の流れたであろうそれは、未だ憩いの面影を残している。……)
バート : (既に長時間、ここまで歩いてきた。かと言って、一休みのためにこの世界の安寧を邪魔することも躊躇われた)……(何に示すでもない、自己満足だとは分かっているのだが――目を逸らす先は、歩くべき道の先へ)

どこかの森

いよいよもって根詰まってきた。
森は抜けない。

日が傾いてきた。
足が棒のようだ。
そろそろ何か食べたい。
木枯らしが心細さを呼び起こす。

…………。
……。

バート : (放棄された村は、すぐにでも見えなくなった。もうじき、行き先すらも見えなくなる)……、また。野宿でもしなければ、かな……
バート : (野ざらしの宿に慣れているとは言え、それを好むかどうかとはまた別の話だ。馬車と金を失っていなければ、今頃は……)

「あんらぁ!」

バート : (びくりと肩が跳ねた。人の声というよりも物音として認識された、それの出所は)

「旅人さんかえ? こんなところでどうしたんだい」
 ──ふいに現れたのは皺だらけの老婆だった。

バート : お、っ、……お婆さん。
バート : こ、こんにちは。(随分と久々に声を発した気がして、ちょっとばかりどもった。どちらかと言えば夜の挨拶のほうが適するかとか、しょうもないことを考える頭はよく働く)

武装している様子はない。
しっかりと防寒具を身に着けており、この土地に住まう小作人のような印象を受ける。

バート : あの、付近の住民の方とお見受けします。自分は長いこと道に迷っておりまして……とかく街道に出たいのです。方角だけでもご存じありませんか?

「あんたら迷子かい? そりゃー大変だっただろう!
 うちに寄っておいき。この辺は底冷えするからねえ」
── 老婆は年を感じさせぬ屈託のない表情で笑う。

バート : むっ、……(頭に過ぎる屋内の快適さ、温かさと風よけ。ぱっと表情を明るくしかけて、慌てて引っ込め)いや、しかし、通りすがりの身でご迷惑をお掛けするわけにはいきません。

言うだけ言うと、有無を言わさぬ様子で老婆は歩き出した。
見た目に反して、きびきびとした足取りである。
見失えば今度こそ帰れなくなりそうだ……。

バート : あっ、え? あの、お婆さん……(それを見れば、迷う時間はわずかだった。夕暮れの中で姿が見えるうちにと、一歩後に続く)……かたじけない、お世話になります。

集落

老婆の後を着いていくと、小さな集落に辿り着いた。
表で干し肉を管理していた青年が見知らぬ顔に手を振ってくる。
ぽつぽつと立つ住居は素朴な造りだが、
立ち上る食卓の煙が人々の営みの気配を感じさせた。

バート : む……、こんなに人が。付近は廃村だけかと思いましたが……(挨拶が届けば、律儀に堅いお辞儀を返す。長かった一人の行脚を思えば、温かな安心感を覚える空気だ)

老婆は自身の家に招くと、作り置きのシチューを温めてくれた。

今朝のこともあってあなたは警戒したかもしれないが、
配膳するや否や躊躇いなく老婆自身がそれを口に運んだことから、
妙なものは入っていないようだ。

バート : (背筋を伸ばして食事の挨拶。続いて、匙を取る前に)……その、ありがとうございます。自分のような見ず知らずの者に、屋根どころかこうして食事まで振舞っていただいて……  

老婆
「ああ、あんたらが山賊かもしれないってことかい?
 あっはっは! ここから持っていくもんなんかありゃしないよ」

とはいえ、老婆の家には色々なものが並べられ、煩雑としていた。
民芸品に衣服、壁に掛けられたお守り……。
それらのはどこか、文様に一貫性がない。

バート : そう……なんでしょうか。(皿に添えた手は、じんわりと手を温める)いえ、深い警戒心なく迎え入れていただけるのは、ありがたいことです。

戸が叩かれる。
「ばーちゃん! ばーちゃん! さっきの人だれ!?」
……元気あふれる子供たちの声だ。

バート : むぐっ……、……(賑やかな声に、思わず一口目の匙を噛んでしまった。一呼吸の落ち着きを取り戻してから、嚥下し……)

中にあげられた子供たちは、食事中にもかかわらず、
あなた達に飛びついてきた。
老婆が追加の皿にシチューを盛りつける。

バート : (バートとそこまで年の離れていない彼らは、それはそれは人懐こかった。村が長く平穏の中にある証拠だろう、それを思えばふと表情も緩み)

老婆
「あぁあぁ、コウとウメか。
 うちの子って訳じゃないんだが……よく遊びに来てねえ」

『コウ』『ウメ』こと少年少女二人は、
この村の衣服なのか、簡単に布を継ぎ合わせた格好をしていた。
縫い目の目立つそれはどことなく人形を思わせる。

バート : コウさん、ウメさん。……こんなに優しいお婆さんがいれば、お話ししに来たくもなるものですよね。

ウメ
「ねえねえ、なんでこんなところに!? どうやってきたの!?」
 ──おげんきだ。

バート : ああ、えっと、それは話せば長くなるのですが。自分は迷子みたいなものでして……
バート : こちらのお婆さんと出会わなければ、今頃どうなっていたことか。感謝してもしきれません。

コウ
「ねーねー武器見せて武器! それともマホウ!?」
 ──とても。

バート : あっ、危ないですよ! 自分の槍はちょっと、その、刃渡りが長い型ですから……
バート : (矢継ぎ早の質問に答えて、答えきらないうちにまた次が飛んでくるのかも。食事と会話とで口は忙しないが、今はそれが楽しくもあった)

老婆
「こらっ、それくらいにしてやれ。
 こちらの冒険者がたは疲れてるんだから」

二人は肩をすくめてわざとらしく『はぁい』と答える。
そのあと、多少はおとなしくなったが、
それでも好奇心は隠せぬようでちらちらと視線を向けてきていた。
おなか一杯になるとちび助共は早々にお昼寝と相成ってしまう。
ウメの頬を撫でながら、老婆は語り始めた。

バート : (すっかり食事を頂いて、ついでに話し込みもして。まどろみに流れる穏やかな時間に、今日はバートの眼差しも加わるのだ)……ふふ。明るくて、良い子たちですね。

老婆
「騒がしくて済まんねえ。コウとウメは、
 早々に育て手から見放されてねえ。
 寂しがりなのさ。大目に見てやってくれ」

バート : いいえ、とんでもない。自分も……似たようなものですから、今日は全く寂しくありませんでしたよ。

老婆
「人は誰しも帰る場所を求めてる。
 この子たちも、ここを『帰る場所』だと思ってくれていればいいんだが……」

バート : (焚かれた暖炉にあかあかと照らされる、健やかで丸いその頬。――老婆の思いは、きっと子どもらにも十分通じていることだろう)……ええ。

バート : 今日の自分にとっては、この家がそうです。ですから、お二人もきっと。

……騒々しい団欒もひと段落着いた頃、
老婆は寝床として空き家を案内してくれた。
丁寧なことに、藁布団まで持ってきてくれる。

バート : わ……いいんですか、お借りしてしまって。

老婆
「明日になったらまたおいで。朝食も食べておいき」

とんとん拍子で肝心の話題である、
リーンへの帰り方へ訪ねる機会を失ってしまった。
それどころか完全に世話になってしまった。

バート : ……ええ。明日には、ここを発たねばなりません。本当にありがとうございます。何から何まで、一体どうお礼をすればいいものか。

今日は色々大変だったし、
お言葉に甘えてさっさと休んでしまおう。

バート : (老婆と就寝の挨拶を交わし――まさか今晩、こうして温かな寝床に入れるとは思わなかった!――部屋で一人になる。こんなに穏やかな心地で眠るのはいつ振りだろうか。身を横たえれば、安堵がすぐに眠気を誘う)

…………。
瞼の裏。夢か、あるいはただの空想か。
貴方は、貴方自身の『帰る場所』に居た。
幸福? 悲壮? ……その意味をはかり知るのは貴方だけだ。

バート : (気にかかる話をした後は、関連する思案が長らく頭に残るものだ。今日のことも例外ではなく、それは眼裏に遥かな記憶を映し出す)
バート : (いたずらじみた風。見渡す限りの地平と、抜けるように広がる青空。あるいは、単なる理想と混じりあった結果のそれ)

バート : (もう、戻れない場所。――)

バート : (失われた景色がゆめまぼろしだと気付くのは、惜しいことなのかその逆か。〝バート・ロバート〟は、その答えを己で見出せずにいる)

翌朝。
あなた達は目を覚ますと、老婆の住居へ向かう。

住居までそう遠くはないが、
早朝の冷ややかな空気は意識を明瞭とさせた。

バート : (随分と、さっぱりとした目覚めだった。さっぱりとした。起床後、軽い身支度を整えて……ついでと言い訳しながら確かめた荷物は、たったの一つも減っていなかった)
バート : (土の寝床に比べて豪華な寝台は、それ以外の理由でも恵まれた宿と言えた。老婆には、礼をせねばなるまい)

老婆
「あんらあ、おはよう」
 ──朝食はベーコンの乗った目玉焼きトーストのようだ。

バート : いただきます。(祝詞の後の、食事の挨拶。出来立てのトーストとそれに乗る卵は、目にも鮮やかだ)……本当に、どんな店の食事よりも御馳走です。

…………。

バート : (香ばしい香りとさくさくの歯ごたえが、寝起きの胃を温めていく。体はすっかり日頃の鍛錬の時間を思い出してそわつくのだった)

バート : ……全く何から何までお世話になりました。お礼になりそうな持ち合わせがなく、心苦しい限りですが……お話した通り、今日ここを発つつもりです。

老婆
「もう、帰るのかい?」

バート : ええ、これ以上お世話になるわけにもいきません。……本当に、ありがとうございました。この御恩は忘れません。

老婆は一間おいて、『そうかあ』と言った。
老婆
「なあに、簡単さあ。来た道を戻ればいい」

バート : む……、来た道、ですか? この村に来た方向だと、自分の目指す街道とは反対方向に行ってしまいますが……

老婆
「冒険者さんよ、最近掃除でもしたかい?
 もしくは、失せ物探しとか」

バート : ……はえ?(思わず抜けた声が出た。話題の転換がつかめなかったのだ)

老婆
「ここはね、ウセモノノクニという場所なのさ」

老婆
「捨てる、置き去りにする……”過去にする”と、
 区切りをつけられたモノが辿り着く場所」

バート : (ぱくぱくと動いた口から、声は出なかった。失せ物の国。――あの子たちは、見放された子ら)
バート : (ついで回想は遡ってゆく。この家にも多数並んでいる装飾品や道具類。華やかであれど裕福だとも言い難い、雑多な品並び)

老婆
「なあに、”過去にする”ということは悪いことじゃない。
 心の整理をつけて、未来に備えるということなんだから」

バート : 過去に……されたものの国、ですか。ここは……(そもそもバートがリーンを出たのも、失せ物捜索の依頼を受けたからだ。心当たりとしては完全で)
バート : (しかし、それよりも多く思考を占めているのは、目の前の老婆のことだった。子どもらを迎える側として振舞っていた彼女も、そうしてここに辿り着いたのか)

老婆
「ここではみんな幸せに暮らしてるよ。
 コウもウメも楽しそうだったろう?」

バート : ……、ええ。
バート : そうですね。本当に、そうです。自分も、ここが少し羨ましくなるくらい。

老婆
「いいのさ」
老婆
「いっておいで」

バート : ……(老婆に促されて、朝食の席を立つ。直立すれば、そのまま真っすぐ頭を下げて)
バート : お世話になりました。……またいつか、自分がここを訪れたときは……
バート : ……きっと再び、家族のように迎えてくださるでしょう。もしかしたら、あのお二人も一緒に。

バート : とても、楽しみです。……それでは。


羊のしっぽ

貴方たちが目を覚ますと、そこは羊のしっぽの客室だった。
徐々に状況を思い出してくる……。
貴方たちはアルマの掃除の手伝いをしていたのだ。
暦が変わるのにかこつけて、心機一転ということらしい。

バート : (目に映ったのはくすんだ天井ではない、藁の匂いもしない、清潔な見慣れた部屋だ)……(なんだか、長いこと眠っていたような気分だ。身を起こしたきり、立てた膝で頬杖をつく。ぼんやりと前後の記憶を取り戻してゆく……)

コルトが頭を下げるなんて余程だ。
『姉さんが日記を見返し始めて帰ってこないんです』……と。
お礼とばかりに一泊と夕飯を無料にしてくれた。

そうして今に至るわけである。
さあ、下に降りよう。

バート : ……ああ、そうだ。それの流れで一泊して……
バート : (うねった髪を撫でつけて、ようやっと寝台から降り)

 

アルマ
「ゆく年、くる年……。
 過去のアルマを脱ぎ捨て、この私は新たなステージへ!!」

バート : (何やら派手な口上に出迎えられた。寝起きの頭には、少々染みる)……、アルマさん? どうされました……

コルト
「すみません、姉さんったら大掃除で大量のへそくりを見つけてから、ずっとこんな調子で」

バート : なるほど、それでは……天にも昇る心地の最中ですか。掃除のご褒美に違いありませんよ。

アルマ
「今の時期、なんでもかんでもセットでお得に売ってるしぃ~。
 せっかくだし、色々アクセサリーでも買っちゃおうかしら!」

バート : ……。掃除の後に散らからさないというのも、大事なことかと自分思うのです……

コルト
「……ところで。今日、夢は見ました?」

バート : (ご機嫌のアルマを横目に、問いかけには首を振る。縦に)ああ……ええ。見ましたよ。ちょっとした冒険のようでありました。

夢……。状況から察するに、あれは確かに夢だったのだろう。
思えば色々妙だった。景色すら朧で、思い出せないのだから。

バート : 最初のうちの幸先はかなり悪かった気もしますが……それ以上に、いい夢だった気もします。細部はあまり覚えていませんね。

コルト
「姉さんが最近、東方文化ブームで。
 ある特定の日に見た夢は、正夢として叶うとか。
 なんですが……」

コルト
「僕、大量の餅が襲来してくる夢を見ちゃって」

バート : コルトさん、あなた……悪夢というやつですよ、それは。

コルト
「……いいんです。
 どういう叶い方をするかなんて分からないんですから」
それにしても、なぜあんな夢を見たのだろう?
……その時、貴方、あるいは貴方達のだれかの懐から、
固いものが零れ落ちた。

バート : 夢占いというのは得てして好都合を取り入れ、それ以外の部分は教訓とするものですが……(首をひねった折、ふとポーチが軽くなり)あ、おっと?

石だ。名を確か、共鳴石。
……いつだったか、錬金術師の失せ物探しの依頼を受けた。
思ったより大変だったので追加手当が出たのだが、それがこれだ。

バート : ああ、すみません。(コルトの手伝いを制しつつ拾い上げ)……少し前に報酬で受け取った石ですね。こんなところに入ってたか……

ルドですらないそれに当時何を思ったか。
『他人の意識を呼び寄せる』効果があるそうで、
一部では連絡手段として使われているとかなんだとか。

とはいえ一つしかないのならどうしようもない。
もともとルド代わりだし、アルマの掃除ついでに、
質屋に出そうと荷物袋から引っ張り出してきたものである。

いったい何を呼び寄せたのやら……。

バート : (長らくはこれに対する意識もなく、なくしたものかと思っていた品だ。はした金にでもなるのなら、多少の得した気分はあるが)
バート : (まだ、取っておいてもいいかもしれない。……何となくの物思いと共にポーチに入れ込み、蓋を閉めなおした)

……奇妙な体験をしたあなただったが、
だからといって何かが大きく変わるわけでもない。
二人に挨拶をすると、『羊のしっぽ』をあとに、今日を始めるのであった。