シナリオ:ブレスレスのわたしは人魚
キャラメイク
🔮<剣♠️ 女王 > 貞淑で悲しみ多き女性/未亡人/喪失
深海の王。既につがいは亡くしている無性で、つがいを失った時点で自身も深海を追放された。
いわば余生の中にあり、気の赴くままに海中を漂って過ごしている。まだ見ぬ海域の冒険も悪くはないか、と思い始めた井の中の蛙。
01.出会い
海の底
今日は、生まれてから何度目の日なのだろう。
深海に時間はない。日の光は届かず、潮の流れもほぼ一定だ。あの世界では、肌で感じる感覚だけが時間の流れだった。長く生きれば生きるほど、その刻み方は曖昧になっていく。
己の感覚が狂ったわけでなければ。おそらく「今日」が、己が目を覚ましてからちょうど百年目の日だ。
🎲1d6 → 4
判定:聡明さ:4:海上の世界に思いを馳せる。
二人で一つが、王だ。
片割れがいない王などというものは不完全な存在だ。だから己は片割れの死体を食らい、骨だけを残して、そうして貝殻の玉座を捨てた。それが、種に刻まれている在り方なのだ。
それに違和感はなかった。だが、種の生き方を捨てた後にどうすべきかまでは知らない。己は生まれ故郷と言える海域を離れて久しい。
長い生活の中で、若者が浅海に上っていくことはよくあった。彼らはすぐに帰ってきたり、そうでなかったりする。そうでないものはきっと海を出てしまったのだ。海上とは死の世界と同義であり、まだ見ぬ我々には詳細も分からない。
どうせなら、死の世界をこの目で見てみるのもいいだろう。己がまだ、己自身で泳げるうちに。
夜の宴
🎲1d4 → 3
判定:視力:3:魂+1
ひたすら浮上して浮上して、……そこが海上であることに気付いたのは、呼吸器が痛み始めてからだった。妙に周囲の水が軽い。いや、喉も痛い。……己は、水がない場所に顔を出している。
小さな海溝でかたどったような、なだらかな形の器が水の上に浮いている。器の上では己と似たような影がうろついていて、時たままばゆく光るものに照らされている。
中央にいる影――あれは知った顔だ、と思った。そんなわけはないのだけど。己が骨の髄まで食いつくしたつがいと、同じ目をしている。
ように見えた。
嵐の夜
気付けば時間も忘れて、その宴の様子をじっと見つめていた。
上から水が降ってきたのは、かなり経ってからのことだ。海の上にも海があるのだろうか――疑問の答えよりも先に、己の前に流れ着いたものがある。
つがいの眼だ。その二つは、今は静かに閉じられているけど。
🎲1d10 → 9
判定:海上への憧れ:9!魂+3
つがいは海上で生を得ていたのか。あの海ではなく。
抱えた体は随分と重く、だけど尾もヒレもなく、それでいて熱かった。深海で生きられる体ではない――海上のものとして生まれなおしてしまったのか。
このまま沈んでしまっては、誰とも知れぬ魚に食われるが関の山だ。それでは困る。
己が食いつくさねば。つがいが望むのなら、また海に還してやらねば。
出会い - 岸辺にて
己はつがいを抱えて、海とその上の境をひたすらさまよった。
海上のものが生きやすいのは、きっと海ではない。あの大きな器が使えればよかったが、あれはほとんど海に沈んでしまった。代わりになりそうな器を探して――見つけたのは、海の上まで飛び出た岩礁だ。
水を被らない岩場につがいを投げると、つがいはうめいて目を開いた。
発されたのは知らない音色だ。でも、この目はよく知っている目だ。
🎲1d8 → 3
判定:海上への憧れ:3:魂+1
知っている目だ。
いいや、己を知っていてほしい、というだけかもしれない。
つがいはまた音を発した。
🎲1d8 → 3
あのかた:ランク1D8:3!ぼうっとしている。魂ー1
初めて聞くような音だが、それは海中で語り合うときの物音ともよく似ていた。
己の知る返答をしてみる。水を通さない音響はうまく発せられなかったけど、つがいには届いたようだ。
「きみは」と言われたから、己の音を告げた。「ここは」と言われたから、海の上だと伝えた。「たすけてくれたのか」と言われたから、沈んでは困ると答えた。
🎲1d6 → 1
つがいは海の上に城を作ったらしい。そこに帰ると言い、己もどうかと問うてくる。どうせ海底にお前はいないのだし、己の居場所だってない。
03.暮らしフェイズ
海の上の城は、たいそう狭かった。正確には、海の上の城の、水の中は。
つがいが己のために用意した器は、常に大量の水で満たされた。髪と尾はすっかりはみ出してしまうが、これが最も大きい器だと言う。
水が合わなくて気分が悪くなったと言うと、つがいの召使がやってきて、器に白い砂を注ぎ入れた。やがて、水は海と同じ味の水になった。
つがいはたまに顔を見せて、何かしらを話していった。その間にも周囲は暗くなったり明るくなったり、なんとも忙しない。海の上にも蓄光の植物や熱噴出孔があるのだろうか? 海の上での時の流れは、海とは比べ物にならないくらい早く、目まぐるしい。
できごと
1
🎲1d10 → 10
強い衝動。
🎲1d10 → 3
海の上の景色やつがいの召使や、新鮮で不思議なものはたくさんあったけど、何より心が躍るのはやはりつがいそのものの存在だった。
つがいは、海にいた頃のことは何も覚えていなかった。物言いも仕草も、何もかも違った。それどころか、水の中で泳げないという。だから己が助けてくれて助かった、と。
発声を伴わずに捕食器官を動かすことを、つがいは「微笑み」と言った。己はできない動作だ。でも、「微笑み」するときのつがいは嬉しそうな声をしている。
2
🎲1d8 → 8
判定:海上への憧れ:8!:【想い】1種を喪失
この城は少し退屈だ。水から出ると体が重いし(このときは召使が血相を変えて己を器に押し戻した)、かと言って寛ぐには水が狭すぎる。
つがいや召使には尾ひれがない。海の上ではそれらを使わず、代わりに二本の「あし」を使うらしい。あしがあれば、自力で器も越えられるし、……つがいと一緒に海の上で泳ぐことができるのだろうか。
想い:歩行の願望チャレンジ!
🎲1d20 → 15
1D6の思いを獲得!
3
🎲1d10 → 7
判定:長い髪:7!魅力の喪失
自分が自分でなくなっていく。
海の上というものは、不自由だ。特に、召使が長い髪に「くし」を通しているとき。
その間、己は動くことを禁止されて窮屈だし、頭を何度も引っ張られる。定期的に召使がやりたがるのでやらせているが、古い貝殻を磨き直すのと同じくらい無用に感じる。
ある日、つがいがその様子を見に来た。己は退屈と窮屈を訴えた。つがいは「微笑み」して言った。
短く切ってしまおうか、と。
つがいはついに、海の生き方すらも忘れてしまったのだ。
4
🎲1d8 → 2
判定:長い髪:2!:人とは分かり合えないのだ。
🎲1d3 → 3
尾ひれと髪は、深海での権力を示す。それは海の中で続く決まりごとであり、永遠の伝統であり、海がある限り変わりようのない事実だ。己は王としての生を権力と共に生きた。それはつがいも同じことだ。なのにどうだ。
つがいは死と共に海の体を捨て、海の上に還り、そうして海のことも忘れてしまったのだ。
その青い眼差しだけを残して。
エンディング
召使に城を出ると告げると、大仰に驚いた。
「ここは安全ですよ」「海よりは少し窮屈かもしれませんけれど」と問うてくるが、全て知っている。己は広い海のものなのだから。
「王子様にもお話しませんと」と言うが、己は全てを断った。つがいは、海そのものも忘れてしまうがいい。それが、陸という場所での生き方ならば。
召使はひどく惜しんで、それでも己の帰還を手伝った。自立のない己の身体を海のそばまでこっそり運び出し、そして波間に転がした。
「王子様に伝えなくてよろしいのですか」と重ねて尋ねられたが、己から言うことは何もなかった。「今のお前が幸福ならよい」と、それだけ。
這入る海は、以前と何も変わらなかった。ただつがいが失われただけだ。
鱗を撫でてゆく水流が心地いい。召使の叫ぶ声はすぐに聞こえなくなる。海の上のことは、すぐに泡と消えてゆく。
己は海の深くへ。さらに深くへ。己が海のもののままで生きられる場所へ。